教員著書あ・ら・か・る・と−著者からのコメント
経済学のパラダイム・チェインジ
元田厚生著(創風社1998.4)
この本では、思想的に対立しているように見える資本主義擁護論と社会主義論とが、経済社会に対する理論認識においては瓜二つの双生児にすぎないことを明らかにしている。つまり市場を通じて経済資源の最適な分配が可能であるとする市場万能論と、中央統制機関によってしかその分配ができないとする計画経済論とが、生産物や商品を何らかの共通単位(前者は商品価値、後者は労働価値)に還元できると見なす点では、同じ経済認識を共有しているということである。したがって、環境破壊が資本主義圏と旧社会主義圏において同時に発生したことは偶然ではない。なぜなら、環境破壊はコスト計算を超える自然に固有の価値を認めず、投下された労働と資本だけで経済計算することの結果としての、自然素材の浪費に由来するからである。
移動溶液
今福龍太著(新書館1998.5)
旅が日常の世界に完壁に組み込まれてしまった現代では、もはやわざわざ勢い込んで「旅に出るぞ」と構えなくとも、旅はいつでもどこにいても始めうる。そうした、無数の旅が日常に散布されてしまった時代に、あえて旅が本来もっていた自己破壊と自己発見の運動性をどのようにして回復すればいいのか。本書は、そんなポスト・ツーリズムの時代に生きる宿命を負った私たちの「移動感覚」をもう一度鍛え直すヴィジョンを求めて書かれた文章の集成である。旅にはまだ、私たちを溶液に投げ込み撹絆する力がある。この確信を、私は本書に込めたかったのである。
〈世界〉にであうレッスン
三上勝生著(新曜社1994.3)
「世界のミーハー化に拮抗しうるように自己を方法的にミーハー化せよ」というのが本書のメッセージです。大きな物語あるいは神話が次々と相対化されていく今日的状況のなかでは、それらに託されてきた自己もまた相対化されざるをえません。しかし、そこで後手後手に回って状況に振り回されずに生き抜くには、先手を打つ、打ち続けるのだという発想の転換が是非とも必要になります。それが「方法的ミーハー化」です。相対化時代の波を果敢にサーフ(surf)する感覚です。ルイス・キャロルが少女アリスに託した混沌状況のサバイバル・ツールもまたその感覚なのです。なぜ「少女」なのかはあなたの宿題です。