この本よんだ 11
『ザ・フィフティーズ』 D・ハルバースタム著 (新潮社1997.6)
エルビス・プレスリーからリチャード・ニクソン、避妊薬ピルから原子爆弾まで、本書は、50年代のアメリカを政治・経済・社会・文化等あらゆる面から斬ったノンフィクションである。ページをめくる毎に、もっとも輝いて見えた時代の裏側が見えてくる。50年代はラジオからテレビに移り変わった時代である。ケネディ一対ニクソンの大統領選でのテレビ討論対決がある。結果は周知のとおり、テレビの活用法に熟達していたケネディーに軍配が上がった。これはテレビのもつ政治的・文化的な重要性が際立った象徴的事例といえるだろう。また、テレビ番組『クイズショウ』では視聴率を上げるために仕組んだ裏工作が明るみに出て、当時の大きなスキャンダルとなった。幼ない頃、白黒テレビを見ていた私に、アメリカのホームドラマは広い庭に大きな家、部屋にあふれる大型の電化製品等アメリカの豊かさを見せつけ、羨ましがらせた。しかし、アメリカの都会で狭いアパートに住む子供も、日本に住む私と同様、ドラマで主人公の少年がいたずらをした時に、「二階の自分の部屋でおとなしくしていなさい」と母親から叱られる場面を見て、自分の部屋があったらどんなにいいだろうと羨ましがったのだ。著者はあとがきで、自らを「私は50年代の落とし子だ」と公言し、「自分の価値観はこの時期に形成された」と語る。「激動の60年代がなぜ起こったか、その道を辿るためにこの本を書いた」ともある。彼は1964年にベトナム戦争報道でピューリッツァー賞を受賞し、72年に発表した『ベスト&プライテスト』は大ベストセラーとなった。その後、『メディアの権力毒』、日米自動車業界を描いた『覇者の騎り』等のベストセラーが続く。スポーツノンフィクションの分野でも多数の著書がある。どのテーマにおいても一環してそこに生きる人々の生き様を描く彼の作品は、どれも一読の価値がある。本書は、私自身が少年期・青年期を過ごした激動の60年代を、探りつつ懐かしがりながら読んだ一冊である。
(加藤清隆)