本十進分類法は題目主義でなく本質主義に改めよ

経済学部教授 原田明信

 現代統計学方法論を含む帰納的論証の一般的方法に対する、社会科学的観点から観た根本的改善に主要な問題関心を持つ私は、「蓋然性(probability)の哲学的・論理的基礎」は避けては通れない重要な課題の一つであると認識しています。86年から開始した蓋然性論史及び統計学方法論に関する研究過程を前提にしますと、具体的に言って、私としては、科学哲学(philosophy of science)の見地から観た、倫理学者G.Mooreを始祖とする「20世紀前半のケンブリッジ蓋然性論」についての基礎分析が必要不可欠ではないか、と考えております。私は、哲学研究者ではありません。しかし、統計学、蓋然性(確率)論、及び社会認識(経済学)の三者の論理的整合化を志す私にとっては、科学に対する批判的検討が主目的である英米流の科学哲学に興味を抱くのにそれ程時間は要しませんでした。その後、96年10月から97年9月までの一年間、ケンブリッジ大学哲学部にて自由な研究ができる機会を同大より与えられたことは、大変幸運でした。ケンブリッジ大学での留学研修期間中、私は、統計研究所、キングズ・カレッジは固より、哲学部図書館に通いつめたことは、言うに及びません。そこで、この小稿では、ケンブリッジ大学哲学部図書館にて感じたことの一つとして、図書分類表(classification scheme)の特徴の一端について若干述べることにします。焦点は、小稿の文脈に従って、私が関心を持つ「蓋然性論の哲学的・論理的基礎」という主題についての図書分類表上の位置付け(=特徴付け)です。先ずは、ケンブリッジ大学哲学部図書館にある分類表の概要ですが、この分類表に従いますと、蔵書は、(A)形而上学と哲学史、(B)倫理学とそれに関連する主題、(C)心理学、(D)論理学、(E)科学哲学、(F)参考図書、(G)雑誌、(H)抜刷の8項目に分類されます。特に注意すべきことは、(E)科学哲学が、さらに、(E1)蓋然性(確率)と帰納、(E2)科学の哲学、(E3)物理学の哲学、(E4)生物学の哲学、(E5)社会科学の哲学、(E6)歴史の哲学の6項目に分類されているということです。(E1)、(E2)、(E5)は、「統計学、蓋然性(確率)論、及び社会認識(経済学)の三者の論理的整合化」に関連しての「蓋然性論の哲学的・論理的基礎」研究のための参考文献に、きちんと対応していることが良く解ります。これには私は、大変感激致しました。他方、我が国の図書分類法はどうでしょうか。日本十進分類法に従いますと、科学哲学は、驚くことに、大項目「哲学」(分類番号は100)の中にではなくて、大項目「自然科学(数学、理学、医学)」(400)の中に、「科学理論,科学哲学」(401)として分類されています。また、「蓋然性論の哲学的・論理的基礎」に対応する項目は、強いて言えば、大項目「哲学」の中の「科学方法論」(116.5)(ただし、自然科学方法論になると「科学理論.科学哲学」に移ってしまいます)もしくは「確率論:マルコフ過程」(417.1)(これは数学的蓋然性論に限定)ぐらいで、他にありません。日本十進分類法は、非常に場当たり的かつ無定見であると言って過言ではないでしょう。このように、日本十進分類法は、ケンブリッジ大学哲学部図書分類表と比較しますと、あまりにも題目中心主義ではないかと思います。私は、これは我が国の図書分類法上の大きな過誤であると考えています。日本十進分類法の思想は、今後いち早く、イギリスのように、本質主義に改めるべきです。