STUDENTS & TEACHERS
いち押し BOOKS


『ターン』 北村薫著 (新潮社19978)

人間にとって「時」とは何だろうか?どんなに科学技術が発達しようと、人間は「時」に逆らうことはできない。アナログの時計を眺めていると、「時」は廻り巡っているように感じるが、実際には流れているものだ。同じ所にはたどりつかない。この本は、そんな「時」に翻弄される一人の女性と、彼女を見守る男性の話である。交通事故が原因でただ一人、誰もいない世界にとり残された女性。同じ時間をぐるぐる廻り続け、決して先へは進めない彼女の姿に「月日は流れわたしは残る」というアポリネールの詩の一節を思い出した。唯一の慰めば偶然つながった一本の電話。普通の時間を歩む男性との会話が、彼女を勇気づけ励ます。SFなのか恋愛小説なのかと問われたら、一応両方だと答えておこう。人間は「時」を操ることも生み出すこともできない。「時」への憧撮の念が、タイムマシンの存在を考えだしたのかもしれない。しかし、同時に畏怖してもいただろう。人間の手ではどうすることもできない「時」を。時間を超越したいと思う人間は、代わりにさまざまな小説や映画を作り出し、神様も仰天するような未来を考え出した。人が唯一「時」に勝るとしたら、それは想像力かもしれない。個人的には、ケン・グリムウッドの『リプレイ』(新潮社)との読み比べもお勧めしたい。(文化学部3年 糠谷祥子)


『芸術と社会生活』 プレハーノフ著 (岩波書店1965.6)

学生  先生は学生時代、ジャズ評論家を目指していたって聞きましたが本当ですか?
教師  目指していたといえるかわからないけど、ジャズ評論を書いたことはある。『コルトレーン批判』というタイトルがついている。
学生  コルトレーン批判て、あの超大物かつ聖人のジョン・コルトレーンをですか?で、どんなことを書いたんですか?
教師  こんなふうなことが書いてある。《…第三者的ないし小市民的な立場に身を置いたコルトレーンは、自分の音楽の根底に黒人差別の現実とは全然矛盾する虚偽の思想(全宇宙をつないでいる愛の原形の思想)を置いた。そしてこの思想の現実との矛盾性は、愛を表現するといいながら、現れるのは「単なる凶暴な激情」「数え切れないダラダラの繰り返し」というような作品の根本的矛盾を持ち込んでいる。…》
学生  できればもっと分かりやすくお願いしたいんですが・・・。
教師  ここにあるから、来週までに読んできなさい。その上で質問してください。ベクトルをつけた有用な質問を期待します。
学生  何か参考文献などありませんか?
教師  うん。プレハーノフの『芸術と社会生活』という本は、コルトレーン批判を書く上で大変参考になった。是非一読を薦めるヨ。
学生  どんなことが書いてあるんですか?
教師  次の3つのことが重要なように思う。第一、色んな芸術思想上の対立について、どれが正しくてどれが間違っているかという問題の立て方は間違っている、少なくとも唯物論的な問題の立て方ではないということ。第二、(作品化に際して)虚偽の思想は作品のなかに内面的矛盾をもちこみ、それによって作品の美的価値を傷つけるということ。第三、人間の美意識も、その唯物論的基礎があるということ。政治や経済・経営学を学ぶにも、大いに勉強になる。
学生  あの一…。もっと分かりやすくお願いしたいんですが…。
教師  時間がないのでそれは無理です。図書館にあるから、来週までに読んできなさい。その上で質問してください。
学生と教師  (同時に)「冷たいんだから」
(経営学部教授 日向啓爾)