STUDENTS & TEACHERS いち押し BOOKS
『明日があるなら』 シドニイ・シェルダン著 (アカデミー出版 1990.4)
高校時代、アメリカの作家シドニィ・シェルダンの小説に人気があった。彼は罪作りな作家といわれていたが、学生たちは彼の描く生き生きとした人物や変化に富んだ物語に、強く惹かれていた。特に『明日があるなら』(原題はIf tomorrow comes)というこの本。いつもは柔弱と見られていた女性がいかに運命とたたかったか、それがここに描かれている。主人公のトレイシー・ホイットニーは幸せな生活を送っていた。仕事も順調だった。社会の暗い面や生活の残酷性を知らずに生活している普通の女性だった。しかし、瞬時にして、親族もなくし、幸せな生活を失ってしまった。不幸なことが次々と起こり、彼女は社会の残酷性を知るようになった。ある意味で、この社会の残酷性こそ、人間に備わっている自らつとめ励んでやまない根気をかきたてたのだと思う。主人公は自分自身の強さにより、運命と粘り強くたたかい、ついに強者になる。そこに私は感心した。十年を経て、ふたたびこの本の日本語版を読み、はじめて読んだときのように、眠らず一気に読み終わった。みなさんもこの本を読めば私と同じように、手放すことのできない愛読書になることと思う。
(経営学部1年 姜雪春)
『砂のコレクション』 イタロ・カルヴィ一ノ著 (松籟社1988.1)
世界のいろいろなところで拾ってきた砂をガラスの瓶に入れて、ある博物館で展示されていました。どういう切っ掛けで、この砂は選択されディスプレーされていたのか。この展示のもとに、どういう思考法、どういう意識や無意識が働いていたのか。イタロ・カルヴィーノ(1923-1985)は現代イタリア文学のもっとも代表的な作家のひとりです。自分の小説のなかで彼は、さまざまな形で現実を描き、再検討し、想像してきたのです。『砂のコレクション』というエッセー集では、カルヴィーノは珍しいオブジェクトの展覧会(砂のコレクション、昔の世界図、鑞人形、民俗学的な産物など)からスタートして・広い意味での「可視的な世界」を語る:見たもの、見ること、そして、想像したものがこの本のテーマになっています。言い換えれば、カルヴィーノの鋭い目や精密なエクリチュールを媒介にして、ものたちが語るのです。そして、そうすることによって、「不在のもの」(博物館でしか見られない昔のもの、存在しない想像のもの、遠いところにしかないもの)が現代に新しい次元を与えてくれるのです。この本のなかで、カルヴィーノの「知」の構造と特色が現れてきます。百科的な好奇心、オープン・マインド、物質と想像との弁証法の意識、精密なディテールヘの深い感心。まさに、現代の我々のあるべき知のモデルなのです。世界の可読性を前提に、日常生活のなかにひそんでいる驚くべき可能性をフレッシュな目であらわにし、私たちに世界の複雑性や魅力を限りなく語りつづけるのです。
(文化学部講師 ファビオ・ランベッリ)