図書館がまちづくり? 経営学部 佐藤郁夫


 今年四月から米国留学中の私が皆さんにご紹介するのは米国東部マサチューセッツ州ボストンの西18マイルにあるNatick(ネイチック) という町にある Morse Institute Library です。この町は、人口3万人、と札幌近辺で言えば石狩市や恵庭市などの半分強、北海道では紋別市よりはやや大きいですが、美唄市や留萌市など、過疎で悩む市とほぼ同規模の小さな町です。その町の中心部(ダウンタウン)、私が住む家から徒歩約10分程度のところにこの図書館はあります。
 賢明な皆さんでしたらきっと、家から近いので取材先に選んだ、と疑いを持たれましたでしょうね。でもそれは70%位(?)の正解度でしかありません。写真でおわかりいただけますように、この図書館、建物が大きくて美しく、しかも周囲の消防署や警察、タウンホール、教会などとも非常にうまくトータルコーディネイトしているため、強い印象を受けたことが本当(?)の理由です。信じてください。中も絨毯敷きでよく掃除されておりますし、入り口(写真の三角屋根の右)左手の古い建物部分の窓は全部きれいなステンドガラスです。さらには、雑誌コーナーや窓際にはシックな木製テーブルと二人用、一人用の布張りのソファーセットが配置されており、さながら高級喫茶にいる雰囲気を与えてくれます。
 この図書館、町に住んでいた女性(Morseさん)が1873年に土地とお金を寄付してできました。町から運営のための補助金はもらっていますが、組織としては完全に独立した非営利法人です。1997年に全面的な拡張工事がなされ、設立当時からの建物はステンドグラスのある入口左部分だけです。なお、この図書館で働く人は約50人ですが、ほとんどが大学の修士課程で図書館学を修めた人達だそうです。ただし、コンピュータ操作については十分に習熟していない人もいるようで、拡張前の2〜3台から50台へと大幅に増えたコンピュータを事務用から市民の研修用に替えたケースが少なくないそうです。
 この図書館にはもう一つ大きな特長があります。実は97年の全面工事というのは、まちづくりの一貫として実施されたものだったのです。このため、既述しましたように、トータルコーディネイトのために最初に改装した図書館と同じ建築家によって隣の警察や消防署、そして道をはさんだ向かい側のタウンホールも設計されました。今もこの図書館を中心に周囲の景観を再生しよう、という計画が進行中だそうです。日本でいうところの中心市街地活性化の目玉にこの図書館がなっている、ということですね。
 まちづくり、という言葉からもわかりますように、市民に役立つように、これがこの図書館の第一の使命です。ですから、コミュニティ担当の人もおりますし、会議室や応接セットなども市民へのアメニティの一部として十分な配慮がなされているのです。また、Morseさんの遺志もあって、地域の財産である子供教育に非常に力が注がれています。チルドレン担当がいらっしゃいますし、改装前は施設全体の50%、改装後でも30%が子供用で占められているそうです。遊戯室のほか、幼児図書室、小学生高学年用の専用図書室があり、机やイス、テーブル、応接セットの大きさもそれぞれ調整されて置かれています。
 ところで、話しは飛びますが、私がアメリカに来て一番感銘を受けておりますのが、実はアメリカにおける出生率の高さ、そして子供の多さです。私の近所には大きな家が多いせいか、子供が庭で遊ぶ姿をよくみかけます。図書館でもお年寄りより子供を多くみかけます。日本の町の中心部で子供をみかける機会は非常に少なくなりました。アメリカ経済はこれからも成長を続けるだろうな、と図書館内を歩きながら感じる毎日です。