TEACHERS いち押し BOOKS


『学問への散策』 内田義彦著 (岩波書店 1976年)

 法律学とはどのような学問か。学説が消耗品のように扱われ、また「御用学問」などと批判されるような学問とはなんだろうか。それが、本格的に法律の勉強を始めたころ感じた素朴な疑問でした。ちょうどその頃、川島武宜『科学としての法律学』(日本評論社)がきっかけとなり、法律学方法論が盛んに議論されるようになりました。そこで、その議論を吸収するために、学生時代は社会科学関係の書物を乱読し、多くの書物から示唆を受けました。なかでも内田義彦の一連の著作は、その後の研究・教育活動の羅針盤となった気がします。
 とくに『学問への散策』のなかの「読みの構造」・「学問創造と教育」・「学問と芸術」は、いまでも研究や教育にいきづまったときに読み返す座右の文です。「読む」こと、「明晰に表現する」こと、「批判する」こと、などが少し見えるようになりました。たとえば、ウェーバーの複眼構造について、カメレオンの眼が左右独立して動くことを例に説明する個所や、中谷宇吉郎『続冬の華』を素材に学問の「正確さということ」を考える個所などによって、本当の学問のあり方を知らされました。ふりかえると、この著書により、学問の厳しさと楽しさを知りえたことが、研究者の道を歩む契機となったようです。
 大学時代に、なにを感じ、なにを読み、なにを考えたかによって、それぞれの人生の意味は大きく変わってくるものです。そして、大学時代は、自分の知性を鍛える重要な時期です。良き友人にめぐりあうように、良き書物にめぐりあって、充実した大学時代をすごしてもらいたいと思います。『学問への散策』は、その手がかりとなるでしょう。
(法学部教授 山口康夫)
(配架場所:2F書庫 104-U14、内田義彦著作集第6巻 岩波書店 330.8-U14-6)